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2011年9月 2日 (金)

「ストリンガー革命」を読んでみて、思ったこと

1年前(平成22年8月5日発行)の書籍でありますが、本屋にて「証言。」を探す際、たまたまその本を見つけて、気になりました。立ち読みしてみたら面白そうと思ったので、買いました。そして読了。思ったより企業研究の本として非常に完成度の高い本でした。著者は片山修氏です。企業研究の本として定評のある方だそうです。

『ストリンガー革命 ――ソニーの何を変えたのか』 (片山修氏公式サイト)

ストリンガー氏関連の著作といえば、意外にも少ない気がします。ダイヤモンドあたりの記事とかによく載りますが、単に感情的で、ストリンガー氏への批判的とか、アンチソニーの視点による記事ばかりだった気がします。ですから、いろんな意味で、肯定的な視点で書かれた本が欲しかったと思います。ストリンガー氏への批判的な記事を読んでも、どうも感情的ばかりで、説得力が欠けている印象が強かったのです。外国人なので日本のものづくりという意味がわかってないだろ!という先入観を持った記事ばかりだなという印象です。

そもそもストリンガー氏は一体何者なのか、解説した本はほとんどなかったと思いますので、ある意味で貴重な本かもしれません。

実際に読んでいたのですが、単にストリンガー氏を持ち上げる本ではなく、実際にストリンガー氏がソニーの何を変えたのか、事実として書かれている印象でした。正直言って、ストリンガー氏は改革しては当然なことをやっているだけという印象でした。ストリンガー氏の仰っていることはどれも筋が通っていることばかりなので、批判的な方の仰っていることにどうしても首をかしげてます・・・

ソニーのTV事業については今も赤字です。なぜ赤字になるのかという点はともかく、赤字を解消するのに、いろんな改革が行われました。印象的だったのは、他社ならすでにやっていること、ソニーがまだやってなかったことが多かったのです。

ストリンガー氏はベトナム戦争への参加、CBSプロデューサーなどの変わった経験をお持ちで、いわゆる欧米経営者と違って、多文化への理解はきわめて優れている印象です。

BD統一とか、3Dの話も詳しく載ってます。グループの総力をあげて実現させることにおいては、ストリンガー氏は少なくとも優秀だったと思います。

3Dの話ですが、ソニーピクチャーの子会社であるイメージワークスというCG関連会社は、20年前、出井氏が先行投資として設立されました。CG関連として3D研究を色々行っていたため、現在3D技術として大きくリードしていることです。出井氏の功績として持ち上げてます。

若手技術者との交流には積極的で、その意見を吸い出す等、ボトムアップを得意としているそうです。少なくともこの点は評価してもいいと思います。もちろんベテラン技術者を軽視してもいいとの意味ではありません。若手の力とベテランの力が合わせて力が発揮できるような環境にすべきだと仰ってます。

ソフト重視とかハード軽視と見られる話もありますが、ストリンガー氏いわく、ソニーの弱点はソフトであって、ハードについては、ソニーにはハードのエキスパートがたくさんいる。別にハードを軽視しているわけじゃないことです。ソニーにはソフトが弱点なのは間違いなく事実です。ソフトの開発規模がますます複雑になっているのに、現場からなんとかしてほしいとの要望があっても、当時の上司には、精神論でなんとかなるぜという感じで、ソフト開発を軽視したのは事実だそうです。

研究投資も軽視しているわけじゃないそうです。3つの研究システムにわけて中長期研究も投資されていることです。確かに研究投資額は今も6千億円/年ぐらいかかってますし。

ただ、ソニーの株価は低迷であって、結果といえるものは未だに出していません。結果責任といえば、残念ながら重いといえるでしょう。ストリンガー氏を本当に支持してもいいか、未だに迷いがあります。個人的には、改革などで本当によくやっていると思います。しかし結果が未だに出てないのは残念なところです。

セル生産からの撤退の話も載っていました。(その撤退を決めたのは中川氏。)現場からの抵抗がずいぶん強かったそうです。赤字の垂れ流しをとにかく止めることを優先したので、止む得ない決断だったかもしれません。セルのために、ソニーが倒れたら意味がないからね・・(苦笑)

ストリンガー氏のやっていることを評価するには、「ストリンガー革命」を読まないと評価は少なくとも難しいと感じました。僕の持っていた疑問を色々解消しましたし。

片山修氏の著作には今後とも注目したくなりました。またソニー関連の本を出して欲しいです。

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